原発事故について思うこと

あの震災発生から2ヶ月がたった。
復興に向けてまだまだ道のりは長いが、現時点の私の所感を記しておきたい。



原発対応に関しては、あっちでもこっちでも、議論紛々だが、私としては、
結構やるじゃん菅政権・・・
と思っている。



もちろん事故の収束にはまだまだ時間がかかる。



が、「あなた方が撤退したら東日本が壊滅する」と菅総理が画面蒼白になって東電に乗り込んだ時、総理と同じく物理屋の私も同じことを考えて蒼白になっていたので、収束に向けて動き出しただけでも万々歳である。



総理の上記の言葉は、批判を浴びたようだが、正直な本音であったと思う。
なんせ核物質というやつは、
「近くに集めただけで燃えてしまう魔法の石炭」みたいな存在で、おまけに
「猛毒を出す」
超やっかいな代物である。
それが、計測器も壊れた状態で、中がどうなっているかも分からず、圧力だけがどんどん高まっていく。
なのに、水蒸気を抜く作業はいっこうに進まない。
万が一、一基でも大爆発を起こしたら、原発に近寄ることはできなくなる。冷却できなければ、二基目、三基目、四基目と次々に爆発する。
日本壊滅の危機を感じて当然である。



今回の対応で最大のミスは「最初にベントして圧力を下げなかったこと」だ。世論の反発を恐れてか、停電していて間に合わなかったのか、ともかくできずに、水蒸気爆発を招いてしまった。
しかし、その後の処置は、概ね外していないように思う。



空からヘリで冷却なんて、まるで特攻隊みたいな無謀さだと思っていたのだが、温度は多少下がったようだし、その後どうにか冷却に向けて動き出した。
自衛隊、消防隊の人々の尽力に、心から拍手喝さいを送りたい。
こうした努力のかいあって、今のところチェルノブイリほどの放射能放射性物質)が拡散せずにすんだ。
この事故の収束には、長い月日がかかり、大変な人手がかかり、莫大な資金が必要になるだろうが、「東日本壊滅まで行ってない」だけでも十分がんばったと思う。



全国放射線量の公表、水道水や農産物、海産物に関して、いち早く情報公開したところも評価できる。



すばらしいことに、政府だけでなく個人でガイガーカウンタの値を公表する人々もいた。そうした状況はいち早くネットでマップにまとめられ、インターネットの時代はまさに集合脳の時代であると実感した。
http://atmc.jp/
http://www.naver.jp/radiation



放射性物質の拡散予測であるSPEEDIの情報公開も、海外の公表よりも遅かったものの、ちゃんとネットで公開された。
http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/index.html
政府のサイトが公開されたのがいつだったが不明だが、画像自体はかなり早くから出回っていたと記憶している。
風向き情報
http://weathernews.jp/radar/#//c=26
もあるし、ドイツでも放射線飛散シミュレーションを発表している。
http://www.spiegel.de/wissenschaft/natur/bild-750835-191816.html



20キロ境の飯館村などで避難が遅れた点は残念だが、情報が「隠蔽された」というのとはちょっと違う。
これからは個人も自治体も情報リテラシーを身につけ、ある程度、自分の身は自分で守ることは考えていかなければと痛感した。



その後、長期的な収束に向けての議論がされ、委員会も立ち上がり始めた。
まだ枕を高くして眠れる状態には程遠いが、世界中が知恵を絞れば、ひとつずつ困難をとりのぞいていけると信じている。



浜岡原発停止を指示した点も評価できる。東海地震が今後何年先に起こるかわからないが、風向きによっては首都圏が退避地域に入る可能性も否定できない。
文字通り亡国の危機である。
それだけの人を退避させる先もなく、経済はむろんのこと、政府機能も麻痺する。
他の地域にある原発はどうなるんだという議論はもちろんあるだろうが、何もかも同時に手をつけるわけにはいかない。
まず「一番リスクの高いところを止める」のは当然の判断であると思う。



こと原発に関しては、恐怖を感じる人とまったく感じない人とで温度差が激しい。
福島から来た人を避けるなんていう目が点になるような風評被害もあれば、高い放射線量を記録する20キロ圏内から頑なに逃げない人もいる。
先日文系の友人達と飲んでいて、『「ただちに危険はない」という言い方が分かりにくい』という意見があったので、私なりの考えを述べさせてもらった。



・20キロ圏内退避してください
 ⇒近所のコンビナートで火災発生。
  有害な煙が発生してます。爆発の危険もあります。
  ともかく避難してください。
・関東で水道水飲んじゃったけどだいじょうぶ?
 ⇒ノンスモーカーなのに、喫茶店で喫煙席に座って、タバコの副流煙すっちゃった。
  <ちょびっと>肺がんの確率があがるけど、「ただちに健康被害はない」。



多少乱暴だが、こんな感じではなかろうか。



***



私は前総理の原発推進策に疑問を感じていたので、今回の件をきっかけに脱原発論が論じられることを大変うれしく思っている。
仮に、震災にも津波にもテロにも耐えうる、故障も老朽化もしない、人的ミスも起きない夢のような原発ができたとしよう。
それでも、核廃棄物の問題がある。
果たして増え続ける核廃棄物を、私たちは安全に千年単位で保管・監視していけるのだろうか?
今すぐすべての原発を止めることはできないにしても、他の自然エネルギーに移行していく、それはこれから私たち今の人間が生き延びていくため、絶対にやらなければならないことなのだ。



長い目で見れば、地球上で生物が使ってよいエネルギーは、太陽から降り注ぐエネルギーだけである。
石油、石炭、天然ガスメタンハイドレードなどは、太陽エネルギーが化学エネルギーに転換されたものである。
水力発電は太陽エネルギーが位置エネルギー等に転換されたものを利用している。



限られたエネルギーをいかに効率よく使うか検討し、それ以上のエネルギーを使わない生活を目指していかなければ、遅かれ早かれエネルギーは枯渇する。
私たちはに残された道は、そのエネルギーを上手に使うことで満足するか、真空からエネルギーを取り出すような画期的な技術を開発するか(原子力よりも危険そうだが・・・)、更なるエネルギー源を求めて宇宙に出ていくかしかない。



※限られたエネルギーと書くとエネルギーが「減っていく」ように感じるが、エネルギー保存の法則により、宇宙のエネルギーは一定である。
 変化するのはエントロピーである。ややこしくなるので、この話はまたいずれまとめたいと思う。