小説版

ゲームのノベライズに、出だし追加してみた。ここの部分はゲームには入れる予定なし。
うーんなんだかな。陳腐? というか気恥ずかしいというか。
ノッてない夜に書いたので、明日になったら愕然として消すかも(^-^;


 薄暗い洞窟の中を、一匹の蜘蛛がゆっくりと移動していった。
 遠くから差し込む日の光が、黒い火山岩の表面をかすかに照らし出している。ごつごつした岩肌に足をかけ、蜘蛛は器用に洞窟の奥へと滑っていく。
 蜘蛛、と書いた。しかし、なんという巨大な蜘蛛であろうか。大の大人でもゆうに持ち上げてしまいそうなほどである。
 火山の火口にほど近い洞窟の中には、そこかしこに地獄の妖気を噴き出す熱泉や底知れぬ穴が点在している。長い年月を住まううち、蜘蛛の一族は変質し、地獄の番人に似た巨大な魔物と化したのだった。
 太い糸を吐き出しながら、蜘蛛はやがて自らの巣にたどりついた。洞窟の随所に仕掛けられた、やはり魔物に変性した蟲どもを捕らえるための巣のひとつである。
 巣はかすかに震えていた。見れば、巣の端に、なにかがひっかかっている。蟻一匹、あるいは蛾の一匹でもひっかかったのか。いや……
 かぼそい泣き声をあげているのは、なんと人間の赤ん坊だった。糸でぐるぐる巻きにされて、巣の端へ蓑虫さながらにぶら下げられている。
 蜘蛛はするすると音もなく、赤ん坊のほうへ寄っていく。
 人里はなれたこの洞窟へ、いったいどこから紛れこんだものやら。あわれ巨大蜘蛛の餌食とされてしまうのか。
 ところが蜘蛛は、獲物に飛びかかりはしなかった。代わりにゆっくりと、まるであやすように、糸を揺らし始めたではないか。
 泣き声が小さくなった。心地よいゆれに眠気を誘われて、赤子は小さくあくびをした。
 蜘蛛にも母性本能があったものか、それともなにか知れぬ理由でもあるのか、蜘蛛は赤ん坊を食い殺す気はないようだった。
 不吉な赤い複眼は、優しく赤ん坊の動きを見守っていた。
 だが、乳を与える母もなく、人の訪れることもない洞窟の中で、このままでは死を待つばかりではないのか。
 自らの運命など知るよしもない。天然のハンモックの中で、赤ん坊はすやすやと眠りについていた。