新刊情報 「お江戸ありんす草紙 百両の秘本」


10月6日発売の新刊情報。→七瀬 晶 公式ページ
(昨日保存したはずが消えてしまったので書き直し。なんだかHatenaの調子が悪い気がする)


吉原出身のおいちは、実は青海藩の千代姫と双子の姉妹。
ある日、貸本屋舞鶴屋で働いていたおいちの元に、常連客がやってきて、判じ絵を見せ、その絵が描かれた本を探してほしいと頼む。
その本には、なんと百両の価値があるというのだが……? という物語。
前作のごとく、おいちと千代姫が入れ替わってあれやこれや騒動が繰り広げられる。
前作は、ハラハラドキドキのサスペンス調に書いたのだが、本作は、智慧を使ったやり取りに焦点を置いている。

……と、書いていて何なのだが、前作の情報をブログに掲載していなかった。
というか、今年は割と本を出したのに、良く見たら新刊情報の掲載を丸きりさぼっていた。反省。
まあ、公私ともども、あれやこれやと事情はあるのだが、ぼちぼち見直していきたいと思う。




ちなみにこの「判じ絵」という奴、絵を文字にしてなぞなぞにしたものである。
「鎌の絵」「○(わ)」と「ぬ」という字を並べて、「構わぬ」と読ませる謎染めなどが有名で、現在でも手ぬぐいの柄などに使われている。
寛政七年、山東京伝の煙草屋の引き札(ちらし広告)に判じ絵が使われていたのも、よく紹介されている。
拙著の舞台が寛政五年なので、この件あって、京伝先生が引き札を書いたことにしよう、というのが、私の脳内設定。


しかし、さすがに本一冊分の判じ絵というのは非現実的かと思いつつ、資料を漁っていたところ、なんとこれが実際に存在していた。
著者は、拙著にも登場する曲亭馬琴先生(!)
忙しいところを版元にせっつかれ、ネタもないので判じ物にこじつけたとのこと。
拙著の舞台より五年後の寛政十年、そろそろ売れっ子作家になっていて、構想を練るのが追っつかなかったのであろうか。
しかし、丸一冊判じ物、しかも回答編すらないから、ちょっとシビれる。
代わりにというか、後書きに、
「お子様方が解けない場合は遠慮なく聞きにきてください」
とあった。
人嫌いのイメージのある馬琴先生なので、これまた驚き。


後年、かの「馬琴日記」で、
「紹介状もなく、名も名乗らずに来た訪問客があったので家人に追い返させた。こういう輩が一番困る」
とかぼやいていた馬琴先生だが、「遠慮なく聞きに来て」なんて書いたら、訪問客が来ても致し方ないのではなかろうか?
(名乗らないのはどうかと思うが・・・)


ともあれ、出版業界の黎明期だった江戸時代後期。
当時の先輩作家達も、締切が迫っては頭を抱え、なんとか人と違う趣向を生み出そうと知恵を絞っていたのだなと思うと、なんとも身近に感じられる。
赤本、青本黄表紙、洒落本、滑稽本、読本とジャンルも増え、画工も腕をふるってどんどん技術力を上げていく。
増えすぎてマンネリ化したのか、末期には質が落ちたと嘆く声もあったようで、読者も増えたはずだが、薄利多売に陥っていたのかもしれない。
まあ、いつの時代も悩みは同じですな。
平和な時代が続くと、文化が花開く。成熟し、爛熟し、またゾロ戦乱の時代がやってきたりする。
戦乱は物語の中だけにして、世は平和であってほしいものだ。
ま、そんな気持ちも込めて書いた小説である。
どうか手に取った皆様に楽しんでいただけますように。