選手たちよ、ありがとう

五輪が終わった。
たくさんの嬉し涙や悔し涙を残して。

クール系の荒川、不思議ちゃん村主、セクシー系の安藤とキャラの立っていただけに注目度の高かったフィギュアスケートは、多くのものを私に残してくれた。

メダルを取れた選手、メダルを嘱望されながら取れなった選手を見ていて感じたことがある。
やはりどの世界も同じだ、ということ。
勝とう勝とうと思うと、勝てない。
といって、勝つことを考えなければ、やはり勝ちようがない。
禅問答のような世界である。
勝ちを狙いに行きながら、勝つことを頭から滅却した荒川選手の金メダルは、この矛盾したふたつの要求を満たしたのである。

小説を書くにも、「小説を書きたい」という気持ちが先にたってしまうとまず筆が進まなくなる。
まして、上手く書こうとか受けようとか売れようとかいう欲が出ると、もっといけない。
自分の存在が消えるほどに話の中身に没頭し、かつ間違った方向に暴走しないよう、冷静に客観的に見つめる目を持つ――よい小説を書くにはこのふたつを同時に満たす必要があるように思う。

実力を磨き、自分を信じ、とうとうメダルを手にした荒川選手、そしてメダルを取れなくとも、多くの挫折を乗り切り、信じられないような努力を積み重ねて大会に臨んだ選手たちの姿は、私を勇気づけてくれた。
お陰で停滞気味だった筆がようやく滑り出した。
感動を生み出すには、感動を食べなければならない、というのが、大げさではなく、私の実感である。

さて、できあがったもので、読者の心に何を残せるか。
ライバルもメダルもないが、それが私にとっての勝負である。